前頭側頭葉変性症 (FTLD) は, 著明な人格変化や行動障害を主徴とし, 前頭葉・前部側頭葉に病変の主座を有する変性性認知症を包括した疾患概念である。われわれは FTLD の行動障害の背景にある心的機能の障害として「抽象的態度 (abstract attitude) の障害 ; 与えられた刺激の具体性にしばられて, その刺激の持つ一般的, 抽象的属性を洞察できなくなる」に注目した。FTLD 患者, アルツハイマー病 (AD) 患者それぞれ 13 例を対象に, われわれが作製した抽象的態度を評価する 3 つの課題 (概念化課題, 概数見当課題, 状況想像課題) を実施した。結果は, FTLD 患者は 3 つの課題の成績がいずれも AD 患者よりも有意に低かった。さらに課題の成績と常同行動の評価尺度である SRI スコアとの間に有意な相関を認めた。これらの結果から, FTLD では抽象的態度が障害されていること, 抽象的態度の障害が認知の側面のみならず意思決定にも影響しその結果常同行動のような FTLD に特徴的とされる行動障害が引き起こされることが明らかとなった。