視覚失認患者は多くの例で病識の欠如を伴うが, その機序は明らかではない。今回われわれは, 両側側頭-後頭葉の脳梗塞による統覚型視覚失認の症例において, 左延髄腹側の脳梗塞再発による右上下肢の麻痺出現後にはじめて, 視覚失認の病識の出現を認める例を経験した。再発前後で視覚失認や他の認知機能の変化はなかった。病識の獲得にはさまざまな要因が考えられるが, 本症例はその経過から, 麻痺の出現によって高次視知覚の代償を強いられたことが, 病識の改善に寄与したと考えられた。