地域在住の軽度認知障害 (MCI) および認知症高齢者を対象に, 書字障害の文化間の影響を検討するため, 日本在住者とブラジル移民の書字データベースをとくに運用エラーに焦点を当てて後方視的に分析した。日本在住者は田尻プロジェクト・1998 年有病率調査の対象者 625 名, ブラジル移民は 1997 年調査の対象者 327 名である。臨床的認知症尺度 (CDR) に基づき健常 (CDR 0), MCI (CDR 0.5), 認知症 (CDR 1 +) 群に分類し, 自由書字課題, 文の書き取り課題の運用エラーを分析した。その結果, 自由書字は日本・ブラジル間, および各対象群の CDR 群間で有意な差は認められなかったが, 書き取り課題では日本在住群よりもブラジル移民群のほうが, 健常群における「置換エラー」を示した対象者が多く, 認知症群における「省略エラー」を示した対象者が多かった。しかし MCI 群ではブラジル移民群よりも日本在住群のほうが「置換エラー」を示した対象者が多かった。ブラジル移民群は使用頻度の低さの理由から CDR 0 群でも「置換エラー」が日本在住群よりも多くの対象者で認められ, CDR 0.5 群では教示された例文を音韻的に同じまたは似ている文字で記載した場合が多く, このことはブラジル移民群より日本在住群で, 常用している話し言葉により引っ張られてしまった可能性がある。