アルツハイマー病 (Alzheimer's disease : AD) 患者に施行したAlzheimer's DiseaseAssessment Scale (ADAS) の 10 単語即時再生課題における虚再生を記録し, 他の認知機能課題の成績との関係を検討した。対象としたAD 77 症例中の24 症例で虚再生が認められ, 対象全体の平均虚再生個数は1.1±2.6 であった。虚再生された単語のうち68 % ( 13 語) は target 語のいずれかと同一のカテゴリーに属していた。各症例の虚再生の有無を従属変数, 患者属性, 疾患属性, 認知機能属性のいずれかを独立変数とする logistic 回帰分析を施行し, ADAS の単語再認課題の成績が良いほど虚再生が出現しやすいという結果を得た。この結果は, 再認課題が障害されているほど虚再生が生じにくい, と解するのが正しいと考えられる。すなわち, target 語の符号化の過程に主たる障害がある患者では, target 語と同時に賦活・符号化され虚再生の基盤となるはずの意味的関連語もまた符号化されにくいため, 再生すべき語の検索過程で虚再生されることも少なかったと考えられる。健常者では target 語が符号化される際に同時に賦活され符号化される意味的関連語が多くの虚再生語の基盤となっているとされている。本研究の結果は, AD 患者に施行した一般的な単語列再生課題でみられる虚再生にも, この図式が当てはまることを示唆している。