両側大脳半球に病変を有し, 自己の発話に対して病態否認様の症状を呈した純粋語唖の症例について報告する。症例は 78 歳の右利き男性。頭部 CT の結果, 左中心前回とその周辺, および右上側頭回から縁上回にかけて病変が認められた。言語症状, 病変部位などの検討の結果, 本症例は左半球病変を責任病巣とする純粋語唖と考えられた。本症例には, 発話の障害に焦点を当てた言語訓練を実施したが, 2 年以上経過後も, 重篤な構音障害に改善は認められなかった。本症例は聴覚的理解能力や語音弁別能力は正常であったが, 自己の発話に関して病態否認様の反応を呈した。その一方で, 言語訓練の継続には固執するという矛盾を呈したので, あわせて考察を試みた。