従業員約3,600名の業績優良製造販売業T社を対象とした調査資料をもとに, 佐野ら (1988) の業績普通ないし優良同種企業4社を対象とした資料の分析により得られた結果の普遍性の有無が検討された。結果は, 以下のようにまとめられる。 (1) T社の管理範囲にかかわる媒介変数23変数51項目への反応を, 職位ごとに因子分析し, バリマックス回転し得られた5因子の因子パターンを, プロクラステス回転し相互に比較した結果, 職位にかかわらず, ほぼ同一の5因子から構成されていることが明らかにされた。 (2) T社の職位別のバリマックス回転後の5因子解と, 製造販売業3社 (A, S, AI) 込みの職位別の同5因子解を, 職位ごとプロクラステス回転により比較したところ, どの職位でも, 両社はほぼ同一の5因子から構成されていることが明らかになった。 (3) T社の職位込みのバリマックス回転後の5因子解をもとに管理範囲にかかわる媒介変数の因子レベルでの職位間比較を行なったところ, 職位に特有と考えられる反応の違いが, 各因子ごとに明らかになった。また, それらと, 佐野ら (1988) のE社に対する同様な分析結果とを比較したところ, 両社に共通する第4因子までについては, 各々の因子上での職位間差異は, 大局的には両社で酷似していることが明らかにされた。 (4) T社の職位Bの管理者の資料をもとに, 管理者の管理範囲にかかわる媒介変数の5因子のそれぞれと集団の大きさ (直属部下数) および管理範囲にかかわる基準変数4項目との関係を, 重回帰分析により検討した結果, 各因子と基準変数との間に密接な関係があることが明らかにされた。さらに, それらと, 佐野ら (1988) のE社に対する同様な分析結果を比較したところ, T社の第2因子で, E社の第3因子にあたる「部下の仕事の内容・手順・方法への理解度と, 積極性・責任感」についてのみ同一であること以外は, 基準変数との関連の様相は, 両社で相当異なる部分が多いことが明らかにされた。 これらの結果は, 管理範囲にかかわる媒介変数の因子レベルでの内容及びその職位間差異に関する普遍性を示唆すると共に, 各因子の基準変数や直属部下数との関連の様相については, 共通点は少なく, 企業の中での各単位組織の置かれた状況や, 組織内の人的・物的資源の違いにより異なることを示唆している。