本研究では中学年段階の学級において, 教師が学習指導と人間形成に渡って, 学級規範の導入と定着に向けて働きかけていく過程について, 学級目標の標語の使用に着目して検討した。小学校3年生の1学級で週1日程度1年間に渡ってビデオを用いた観察を行い, 学級で頻繁に用いられていた「命を大切に, 心を大切に, 人の勉強を邪魔しない」という標語の使用場面の相互作用を分析した。教師は説明や発表の場面での学習態度や対人関係の問題解決に関して標語を適用しており, 標語は教師と子どもの間に存在する権力関係に代わる普遍的な規範として位置づけられ, 教師と子どもの間を媒介する道具として使用されていた。次第に標語はトラブルの予防や学級の方向性の提示に使われ, そこでは教師によって標語の適用の仕方が開示された。子どもの側は教師との関係の中でその意味を理解するようになり, 教師に対して適用するなど遊びながら用い始めていた。教師は学級規範をめぐって, 行動の規制に標語を利用しつつ, 子どもの遊ぶ余地も残しながら, 学習態度の形成や授業の構造化という学業面と学級内の人間関係の問題解決とを統合的に方向付けていることが示唆された。