近年の大学教育には, 単に多くのことを知っているだけでなく, それを基に新たなものを創造し, 表現する, 言わば「能動的な知」を持つ教養人を育成することが求められるようになってきている。しかしながら, これまでの教養教育において, 学生が社会で行われている創造活動それ自体について知ることができるような授業はほとんど行われてこなかった。そこで本論文では, 「アーティストとの協働の中で, 真正な美術の創作プロセスに触れること」をコンセプトに据えた授業をデザインし, 実践した。大学1年生11名を対象に授業は行われ, 実践終了後約1年半経過した時点でのインタビューによってその教育効果を検討した。その結果, 参加した学生は本実践を通じて創造や表現に関する認識を改め, また表現をすることへの動機づけを高めていたことが示唆された。さらに, 実践は学生それぞれの記憶に強く残り, 生き方の探索にも生かされる重要な体験として位置づいていた。このような成果は, 創造的領域の熟達者になることを目指すわけではない大学生に対しても, 教養として何らかの創造活動に触れる機会を提供する意義を提起するものであると考えられる。