本研究では, 音読における構音運動と音声情報という2つの要因が, 成人の文の読解過程においてどのような役割を担うのかを, 文中の語順の保持の観点から明らかにすることを目的とした。それぞれの要因を分けて検討するために, 構音運動と音声情報の有無を操作した, 構音無・音声無(黙読)条件, 構音無・音声有(読み聞かせ)条件, 構音有・音声無(つぶやき読み)条件, 構音有・音声有(音読)条件を設定した。実験参加者(成人)にはこれらの4条件において課題文を読ませ, その後に続く質問課題(動作主判断, 修飾語判断)と課題文中の語順を入れ替えて作成した再認課題を行わせた。その結果, 課題文提示直後の質問課題の成績においては音声情報による促進効果が生起した。一方で, 修飾語判断課題後の文の語順情報を入れ替えた再認課題においては, 構音運動が成績を促進した。これらの結果から, 構音運動は文中の語順の情報をある程度頑健に保持することで, その後の意味処理の基盤をつくることが考えられた。一方で音声情報は, 文が提示された直後に文中の局所的な語順を保持する役割を持つことが示唆された。