本研究の目的は, 児童の勤労観の形成をいかに道徳授業で促進することができるのかについて検討を行うことである。本研究では, 1)望ましい勤労観の解釈場面と2)多様な勤労観との照合場面という道徳授業の2展開場面に着目した。各展開場面で児童が行う認知処理過程に対して, アナロジー推論が影響を与えると考えられた。研究1では, 望ましい勤労観を物語文から解釈する場面にて, アナロジー推論がいかに児童の解釈(アブダクション)に影響を与えるのか, 検討を行った。6年生( N =120)を3群に分け, 異なる方法でアナロジー推論の促進を行い, アブダクションに与える影響をみた。その結果, アナロジー推論を行うように促すよりも, 構造的類似性に基づいたアナロジー例を提示した方が, アブダクションに至る児童が多くみられた。研究2では, 多様な勤労観との照合場面にて, いかにアナロジー推論が児童の勤労観の解釈に寄与するのかについて事例検討を行った。その結果, 他者との相互作用の中で, 外化されたアナロジーを媒介として探索的にアブダクションが行われていたことが示された。以上から, アナロジー例の提示およびアナロジー推論の使用が, 勤労観の形成において重要な「望ましいとされる勤労観」と「多様な勤労観の存在」の認識を促す上で有効であることが示された。