本研究では, 英語と日本語の準バイリンガル日本語母語話者(研究1)と, 日本語と中国語のバイリンガル中国語母語話者(研究2)を対象として, 第2言語の熟達化によって母語のリズムによる音声知覚が変化するのかどうかを検討した。研究1では, TOEICのListening得点を基準として, 大学生・大学院生47名を英語聴覚能力高群と英語聴覚能力低群に分け, 5つの音韻構造の異なる英単語のスパン課題を行った。研究2では, モノリンガル中国語母語話者およびバイリンガル中国語母語話者44名に, 研究1と同様の英単語スパン課題を行った。その結果, 英語聴覚能力低群は, モーラのリズムに準じた分節化を行っていたのに対して, 英語聴覚能力高群は, モーラのリズムと音節のリズムの影響を同時に受けていた。また, モノリンガル中国語母語話者が, 1~2音節を1つのまとまりとして音声知覚していることが示唆されたのに対して, バイリンガル中国語母語話者は, モーラのリズムに準じた分節化を行っていた。以上の結果から, いったん習得した日本語のモーラのリズムによる音声知覚を変えることは極めて難しく, 英語の音声知覚に強い影響を及ぼすことが示唆された。