説明文に比べると研究は少ないものの, 文学作品の指導が子どもの表象や認識に及ぼす影響を検討することは, 生涯にわたって文学を楽しむ大人を育成するためにも重要である。文学は読み手が体験を踏まえて再構成する自由度が大きく, 説明文よりも多様な状況モデルを許容する。中でも俳句は最も文字数が少なく, この特徴を強く有している。一方, 現在の俳句指導は解釈が定まっている名句の鑑賞が中心であり, 作句活動や相互の鑑賞活動はあまり行われていない。このため俳句本来の面白さに気づくことが難しい状態である。そこで名句の鑑賞のみならず, 作句活動や相互の鑑賞活動を取り入れた新たな単元構成を提案し, 子どもの認知に及ぼす効果を検討した。また, 鑑賞会では, (1)創作者を匿名とし, 創作者も鑑賞者と一体化して鑑賞させる, (2)鑑賞や創作の技法を明示的に教えるなどの工夫を加えた。ある児童の句に着目してやり取りを分析した結果, 異なる状況モデルを共有することで, 個々の児童の想定を超えたより豊かで新しい状況モデルが生み出されうること, 文学に対する興味が喚起されていることなどが示された。最後に, この指導から得られる新たな心理学研究の可能性を論じた。