高校2年の学級集団を用い, 評価者を生徒, 被評価者をホームルーム担任かつ学科担当の教師として, 対人評価の同調的変容に関する実験的研究を行なつた。主な結果は次のとおりである。 1. 対人評価は集団圧力を受けると, その圧力の大きさに従つて影響をこうむり, その効果が他の偶然的要因にうちかつとき, 評定値の同調的変動となつて現われる。対人評価も集団圧力の影響をこうむるという基本的仮定は全体として検証された。 2. 仮設標準の暗示または明示による方法は, ともに提示する標準が, 被験者の初回評定値とある程度以上の開きを持つかぎりは, その開きが集団圧力を形成し, 対人評価に影響を及ぼす。一般に, この開きが大きいほど, 同調的変容の程度 (または出現率) も大きい。 3. 特定の評定要素について評価を変えさせることよりも, 全般的な評価態度を変容させることの方が容易である。 4. 特定人物に対する評価をテーマとして小集団に話し合いをさせると, そこに一定の集団標準が生成し, 各人の評定にこの標準を中心とした同調的変動が生じる。話し合い前の評定値がこの標準から遠かつた者ほど同調的変動は著しい。また生成する標準は各成員の初回評定値の単なる平均値ではなく, 諸要因の相互作用が行なわれる話し合いの進行にかかつている。 5. 同調的性向には個人差があり, 対人評価に集団圧力の影響をこうむる程度にも個人差が現われる。人はある限度まで集団標準から不安なく離れていることができると思われ, 生成する集団標準が予想より高低どちらかにずれていると評定値のうえではかえつて標準から遠ざかるような動きを示すこともある。 以上の結果は, 対人評価に関連ある諸種の問題になにほどかの資料を提供すると思われるが, 考察を集団圧力の短期間的効果に限定してあることを断つておかなければならない。