本研究の主な目的は, 教室における暗黙の強化は競争場面では生じるが, 非競争場面では生じないという仮説を検証することであつた。 被験者は小学校5年生の児童であつた。1学級の男女それぞれ20名ずつからなつている4学級のうち, 2学級の者には競争的教示のもとで課題が与えられ, 残り2学級の者には非競争的教示のもとで与えられた。8個の図形に対応する1から8までの数字を書かせる符号問題を4分間ずつ2日続きでやらせた。第1日目の成績と男女の数にもとついて各学級を半分に分け, 第2口目の開始前に, 各学級の半数の者に対して第1日目の成績についての明白な強化 (称賛・叱責) が与えられた。すなわち競争場面と非競争場面のそれぞれについて, 1学級の半数の者は級友の前で正の強化 (称賛) が与えられ (EP群), 残りの学級の半数の者は同様に負の強化 (叱責) が与えられた (EN群) 。前者の学級においてなにも言われなかつた者は, 級友が強化されるのを観察することによつて, 暗黙のうちに負の強化を受けたとみなされ (IN群), 後者の学級では明白な負の強化を与えられた級友を観察することによつて, 暗黙のうちに正の強化を受けたものとみなされた (IP群) 。 第2日目の正答数から第1日目のそれを引いた値を測度として実験的処理の効果を調べたところ, 主な結果は次のとおりであつた。 (a) 競争場面では, 暗黙の強化における正と負の効果のちがいが大きく (IP群とIN群), 明白な強化での正と負の効果にはあまりちがいがなかつた。 (b) 非競争場面では, 明白な強化における正と負の効果のちがいが著しいが (EP群とEN群), 暗黙の強化ではそれがわずかであつた。 (c) 明白な強化においては, 男子では正と負の効果にちがいが認められないが, 女子では正の強化が負の強化にくらべて著しく成績を向上させた。 (a) と (b) の結果から, 暗黙の強化という現象が競争場面でしか生じないという仮説が大体支持され, そしてその理由が考察された。 (c) の結果は, 女子が明白な正と負の強化に対して, 敏感にそして分化的に反応しやすいという点で, 従来の研究と一致した。