“形・色問題”に関する実験的研究として, 筆者は, すでに, 記憶法とLotto-Methodeによる実験結果を報告した。しかし, いわゆる形・色問題の研究は, 発達的見地によるものとして, まだこのほかに, KATZの図形法や分類法などによって, 従来から研究されてきている。ことに, Lotto-Methodeの始源とみなされている KATZの図形法と比較的多様な方法によって実験可能な分類法とは, 検討されることが少ない。筆者は, “形・色問題”に関する一連の実験的研究として, KATZの図形法と分類法とによって, 次のような実験を試みた。 1. Lotto-Methodeの始源とされているいわゆるKA TZの図形を参考として作成した刺激図形を用いて, 統制的教示 (統制法) と実験的教示 (実験法) とによって比較実験を行なった。刺激図形は, 幾何, 事物, 抽象化の三種の刺激特性をもち, それぞれの刺激図形の特性ごとに, 統制的教示 (同形異色あるいは同色異形の主図形と副図形による方法) と実験的教示 (主図形副図形とがまったく同じものを含むとともに同形異色あるいは同色異形のものを含む方法) とによって実験を行なった。その結果, 幾何図形を用いた場合の統制法においては, 4~5才と6才の間に色抽象から形抽象へと反応の転換があり, すでに行なった筆者のLotto-Methodeの実験結果よりもおよそ1年余り遅れていることがわかった。また, 形と色についての異同弁別能力は, 5才以降で明確になっている。一方, 実験法では, 4才ですでに形と色についての完全な同一視が100%可能であって, また, 4才からすでに形抽象が色抽象よりもいちじるしく優位であって, 以後そのまま発達していく。事物図形を用いた場合では, 統制塗においても4才から形抽象が色抽象よりもはるかに優位であり, また異同弁別については, 6才になってより確かになってくる。もちろん, 実験法でも4才から形抽象が色抽象よりもいちじるしく優位であるが, 形と色についての同一視は, 4才で67%, 5才で95%, 6才で100%となって, 幾何図形の場合に比し劣っている。抽象化図形を用いた場合では, 統制法によると, 4才と5才の間に色抽象から形抽象へと反応転換があり, 形と色についての異同弁別は6才からより明確になる。この点, 事物図形と抽象化図形の傾向は類似している。実験法によると, 4~5才と6才の間で, 色抽象から形抽象へと反応転換がみられ, 形と色の同一視は, 4才で23%, 5才で57%, 6才で80%となって, 少しずつ発達するが6才でより確かになってくる。この点は, 幾何と事物の図形とは異なるところであって, 色が形よりも優位になるという図形特性のあり方を裏づけている。 2. この実験では, KATZの図形法によって実験を行なった刺激図形と同じく, 幾何, 事物, 抽象化図形の三種の図形を混合した分類カード54個を分類する実験群と幾何図形のみの分類カード18個を分類する比較群とによって, 分類法による形・色抽象過程に関する比較実験を行なった。その結果, 実験群では, 3才で形分類 (43.7%) が色分類 (50.0%) よりも少なく, 4才では, 形分類 (59.4%) が色分類 (31.2%) よりも多くなって, 以後, 形分類が色分類よりも優位である。刺激図形として色よりも形が優位なる事物図形を含んでいても, この実験群の分類では, 低年齢に色抽象が形抽象よりも優位になることを示している。一方, 比較群では, 3才で, 形分類 (33.3%) が色分類 (66.6%) よりも少なく, また, 4才でも, 形分類 (31.6%) が色分類 (57.9%) よりも少なくなっている。しかし, 5才では, 形分類 (56.5%) が色分類 (34.8%) よりも多く, 6才でも, 形分類 (68.8%) が色分類 (31.2%) よりも多くなっている。幾何図形のみの分類では, 4才と5才の間で, 色抽象から形抽象へと反応の転換があり, 以後, 形抽象が色抽象よりも優位になっていく。この比較群の反応は, 実験群の反応よりも, 色抽象から形抽象へと転換するのが1年遅れている。このことは, 両群における刺激図形の特性に起因するものと考えられる。 3. 従来の“形・色問題”に関する実験においても, 筆者のLotto-Methode, KATZの図形法および分類法による“形・色問題”の実験においても, 幼児期の前半で, 色抽象が形抽象よりも優位であって, 色の要因が大きく影響することがみられたので, 形と色に対する統制的分類訓練の抽象作用に及ぼす影響を分類法によって比較実験することにした。本実験は, 幼児期における色の優位性を明らかにするために, あらかじめ, 形および色に対し, それぞれ別個に統制的な抽象作用の訓練を被験者に与え, それがその後の形・色抽象の分類実験にどのような影響を及ぼすかを明らかにするとともに, 一般的にとられている教示法の反応結果と比較考察した。その結果, 形のみに統制的抽象作用の訓練を与えられた被験者群の反応は, 4;3才で形分類 (58.3%) が色分類 (33.3%) よりもすでに優位であり, 4;10才でも形分類 (85.0%) が色分類 (15.0%) よりもきわめて優位となって, 5;9才になると形分類 (100%) のみとなる。これは, 形のみの分類を統制的に訓練した結果によるものであるが, 注目すべきことは, そのように形分類を統制的に訓練されたとしても, 幼児期の前半 (4;3才) においては形の要因よりも色の要因のほうが強く作用しているということである。この傾向は, 形とは逆に色のみに統制的抽象作用の訓練を与えられた被験者群の反応によって裏づけられる。その結果は, 4;0才で色 (100%) のみの分類であり, 5;1才で色分類 (70。0%) が形分類 (30.0%) よりも優位であり, 6;4才になると形分類 (50.0%) が色分類 (40.0%) よりも優位となって, 5 才と6才の間に色分類の優位から形分類の優位へと転換していく。この傾向は, 幼児期の前半はきわめて色の要因が強く作用し, それ以後は, 形の要因が強くなることを示している。以上のことから, 本実験では, 形ないし色の属性についてあらかじめ統制的な抽象作用の訓練を与えたとしても, 幼児期の前半では色の要因が強く作用し, その後には, 色から形への反応転換がみられるという発達的傾向を確かめることができた。