本研究の目的は機能的構音障害の問題を分析することによって, 構音発達を規定する諸要因を明らかにするところにあった。本研究では, 構音発達過程における構音の修正, 定着活動にとって重要な機能として, 聴覚的フィードバック機構の働きを重視し, それを語音弁別能力の発達という観点から捉えた。 Iでは語音弁別能力が標準音の獲得に及ぼす影響を明らかにするために, 機能的構音障害児を語音弁別機能の良好なグループとそれに障害のあるグループとに分け, その障害の1年間における変化を分析した。その結果, 両群間に統計的に有意な差が認められ, 標準音の獲得における語音弁別能力の重要性が指摘された。また, 語音弁別能力の程度が機能的構音障害の重症度を示すひとつの示標ともなり得ることが明らかにされた。これらの結果から, 機能的構音障害と語音弁別能力の発達とには関係があることが示されたわけである。 それ故, 機能的構音障害の問題の解明のためには, その背後にあって語音弁別能力の発達を規定する諸要因を明らかにする必要がある。語音弁別能力の発達は構音の発達に先行して獲得されるものであるから, 語音弁別能力の発達の障害は乳幼児期の環境要因と密接な関係にあると推論される。われわれはこの点に着目し, II, IIIで機能的構音障害児のパーソナリティ, および, その母子関係について分析を試みた。 Y-G性格検査の結果, 機能的構音障害児のパーソナリティ特性として, 情緒不安定, 社会的不適応, 自己統制の欠如, 主導性の欠如が指摘された。また, 親子関係診断検査, 親子言語関係診断テストの結果において, 過支配, 過保護を中核とした問題性が機能的構音障害児の母親にあることが明らかにされた。CCP (親に対する子どもの認知像の検査) の分析ではネガティブな母親像が機能的構音障害児たちに形成されていることが示された。特に, 救助場面における拒否的傾向が指摘される。機能的構音障害児がこのようなネガティブな母親像を形成しているということは, 過去における母子関係の問題性を示唆していることになろう。これらのことから, 語音弁別能力の発達を規定する要因として, 母子関係が重要な位置にあることが明らかになったように思われる。 以上の研究結果から, 機能的構音障害の問題は, 単に話しことばの問題だけではなく, その子どもの情緒性, 社会性の発達と密接に関係した問題であると推論することができる。従って, 語音弁別能力の発達を規定する諸要因を明らかにするためには, 乳幼児期の母子関係の形成過程を直接, かつ多角的に分析する必要がある。われわれの研究はこの点について不十分であるが, この問題の分析視点を定めるとで, いくらか役立ったのではないかと考える。