本研究の実験Iでは, まず筆者の先行研究 (1971) との関連で, 2つの弁別逆転学習課題, すなわち, 「具体物」と「大小」の次元の組み合わせである課題Iおよび「形」と「数」の次元の組み合わせである課題IIを用いて, 精神薄弱児の弁別逆転移行の難易を発達的に検討した。さらに, 従来, 結果の指標として使われてきた所要試行数に加えて, 反応時間を指標とした学習過程の検討をおこなった。つぎに, 実験IIでは実験Iで用いた課題Iによって, 4回連続逆転移行の学習過程を反応時間を中心として考察した。その結果, 以下の点が明らかにされた。 (1) 逆転移行の難易を発達的にみると, 精神年齢6才レベルの精神薄弱児では, 抽象的課題 (課題II) に比較し, 具体的課題 (課題I) の逆転移行が非常に困難である。一方, 精神年齢8才レベルの精神薄弱児では, 両課題間に差異がみられず, 逆転移行の容易な者と困難な者が同程度であることが認められた。 (2) つぎに, 弁別逆転移行における反応時間の変化過程に関しては, 個人別に分析すると, 速い学習者, 遅い学習者および学習不能者に共通にみられる学習タイプやそうでない学習タイプなど種々のタイプに分けられた。 (3) 1回の逆転移行および4回連続逆転移行のいずれの学習段階においても, 学習の初期の反応時間は学習達成時後のそれよりも長く, また標準偏差も大きい。逆転移行の時点に注目すると, 逆転移行直後の反応時間は逆転移行直前のそれに比べ長く, このような傾向は速い学習者において顕著にみられた。 (4) さらに, 連続弁別逆転学習において, 逆転移行の原理の習得が速い者 (F-L群) とそうでない者 (SL 群) に分けて, 反応時間の変動性を検討すると, FL 群では最長と最短反応時間の差および標準偏差が学習達成時後に比べ学習の初期において大きく, 逆転移行の回数が増すにともなって, うえの両学習段階の間の差異が著しくなる。これを逆転移行の時点に注目してみると, 逆転直後の最長と最短反応時間の差と標準偏差は逆転直前のそれより一貫して大きい。これに対して, SL 群では, 学習の初期と学習達成時後, ないしは逆転直後と逆転直前の最長と最短反応時間の差と標準偏差の変動の巾がF-L群に比べ僅少である。 なお, うえに述べた報告は, 精神薄弱児の被験児内での比較検討であったが, 今後さらに正常児との比較研究梅谷 (未発表論文) についても報告する予定である。