本研究は選択的注意仮説の検討という観点から, 子どもの偶発学習におよぼす中心刺激と偶発刺激との空間的距離およびカテゴリー類似性の効果を発達的に検討するために行われた。カテゴリー類似性の要因は, 中心刺激と偶発刺激に同じカテゴリーに属する事例を用いる群 (類似群) と同じカテゴリーに属さない事例を用いる群(非類似群)を設定することによって操作された。また空間的距離の要因は, 中心刺激と偶発刺激との空間的距離が接近している群 (接近群) と分離している群 (分離群) を設定することによって操作された。これら2つの要因の組合せによって4つの群を構成し, 各群ごとに幼児, 小学2年生, 小学5年生それぞれ8名ずつを割りあてた。まず各被験者に大きさの異なる2つの線画が対にされていることを練習用カードを用いて教え, 大きい線画 (または小さい線画) だけをたくさん覚えるように教示した。その後, 中心刺激および偶発刺激となる16の線画を提示ボードで同時に提示し, これを4回繰り返した後で中心刺激と偶発刺激の想起が行われ, 続いて手掛かり想起が行われた。 結果は次の通りである。すなわち, 中心学習量はどの群においても常に小5が幼児や小2よりも多く, また群別にみるといずれの群間にも差はなかった。偶発学習量は接近一類似群で小5が幼児や小2よりも有意に多く, 分離一類似群, 分離一非類似群, 接近一非類似群では各年齢を通じてほぼ一定であった。これらの結果から, 中心刺激と偶発刺激との刺激接近も, カテゴリー類似性を高めて課題統合を行うことも, 共に子どもの偶発学習を促進させる効果をもつけれども, 接近一類似群において見出された偶発学習の年齢差を規定している要因はカテゴリー類似性であることが明らかにされた。 カテゴリー類似性による統合課題である接近一類似群の偶発学習に年齢差が生じたという結果は, 選択的注意説を主張したHagenらの結果と一致しない結果であった。そこで, 過去の諸研究において偶発学習に年齢差がなかったのは, 年長になるほど選択的注意の方略を使用するからでなく, 年長児にとっても学習を促進させるための方略を使えないような課題が用いられていたからであると解釈された。そして最後にどの条件においても中心学習に有意差がなかったという結果から, 中心学習が偶発学習とは独立の過程によって生じることを指摘した。