本研究の目的は, 体制化を異にする学習様式を用い得るような刺激事態, すなわち知覚的・空間的手懸の豊富な系列課題とそれらの手懸が排除された系列課題を用いて, 系列学習における学習様式の発達的変化を検討することである。 刺激系列の体制化の要因としては,(1)「提示位置」: 5つの色彩円がそれぞれ異なる位置に継時的に提示される (D条件) か同一の位置に提示される (C条件) かと,(2)「明瞭度」: 記銘時も想起時も共に提示位置が明示されている (V-O条件) かいない (NV-CA条件) か, 記銘時は明示されているが想起時には明示されない (V-CA条件) か, の2つが用いられた。したがって, D条件はC条件より, またV-0条件はV-CA条件より, V-CA条件はNV-CA条件より知覚的・空間的手懸が豊富だと考えられる。 課題は, 上述の2要因で規定された系列の提示後, その系列を各項目の色彩名で, 直ちに想起することであった。被験者は5歳児, 7歳児, 11歳児各36名であった。 主な結果は次の通りであった。 1. 提示位置に関して, 試行数や誤反応数から分析すると, 5歳児ではD条件の方がC条件に比べて有意に速く学習し, 7歳児と11歳児ではD条件とC条件の間に有意な差はなかった。 2. 明瞭度に関しても試行数や誤反応数の分析を行ったが, この要因の3条件間には有意差はなく, 提示位置や年齢との交互作用も有意ではなかった。 3. 系列位置効果に関してみると, 5歳児ではC条件下で著しい逆U字曲線が見出され, 7歳児や11歳児では, D条件とC条件の差は少なく, 系列位置曲線も直線的になっていることがわかった。 4. 随伴行動に関してみると. 5歳児では可聴な命名が多いのに対して, 7歳児やi1歳児では命名は少なく, 口唇を動かす行動が増加することがわかった。 以上の結果から, 5歳児では提示位置によって規定された知覚的・空間的手懸がある場合には, それらの手懸を用いた知覚的操作による学習を行うので, それらの手懸が欠けている場合に比べて系列は容易に学習され, 7歳児や11歳児ではい}ずれの場合でも学習が容易であるのは, 知覚的・空間的手懸に依存せず, 言語・概念的操作による学習が行われるからだといえよう。