本研究は, 居宅男女老人の自己認知像の把握とその加齢による発達的変化をみることを目的として行った。 分析材料はわれわれが老人の一般的心理特徴研究を目的に経験的に作成した老人用文章完成テスト (33項目) を用いた。本研究の対象者は全員居宅老人で男65~74才代37名, 75才以上23名, 計60名。女65~74才代42名, 75 才以上25名, 計67名である。経済環境条件は中産階級層が大半を占める。対象者の健康状態は全員良好である。家族状況は男女共90%以上の者が子ども有であるが, 女性老人の81%は配偶者が死亡している。男性老人ではその率は13%にすぎない。学歴は都下在住老人調査報告と比較してやや高いレベルにある。 1) 老年期前期の性差特徴は男性老人が著明であった。男性老人は若い頃の自己イメージ, 過去全般のイメージ, を肯定的にみ, また現在の社会に対する関心もみられる。一方, 女性老人では過去と若い頃のイメージは自己中心的な狭い関心に支配されているのが目立つ。 2) 老年期後期では, 女性老人に特徴がみられ, 若い頃の家庭イメージを肯定視する者は多いが現在の自己イメージを肯定視することは男性老人より少なくなり更に対人関係に対するイメージも中立的反応が多くなっている。一方男性老人では現在の自己イメージの肯定視が特徴的である。 3) 加齢による自己認知像の変化では, 従来いわれているような単一なプロセスでないことが判明した。つまり (1) 男女に共通した加齢変化として, 子どもイメージ, 老化イメージ, 自己の未来イメージでの肯定反応の減少というdisengagementな側面が示された。(2) 加齢変化での性差として女性老人は家庭イメージ, 対人関係, 現在の自己イメージ等多くの面で肯定視の減少が多く示されたが男性老人ではこの様な変化はみられなかった。これらの変化から女性老人の加齢による自己認知像の変化は disengagementの側面が中心であり, その変化の特徴は連続線上での衰退というよりは, 家族中心・家庭依存から自己中心と内的世界志向へと不連続的に質的変化の過程をたどることが見出された。一方男性老人では女性とある程度共通したdisengagementと並行的にengagement が続いており女性老人よりは連続的な心理的加齢過程をたどることが見出された。