本研究の目的は, 重複分類課題において, マトリックス刺激の言語化要因が課題遂行にどのような効果をもち, また, その効果が, 異なる認知水準においてどのような差異をもたらすかについて検討することであった。 実験Iでは, 実験変数として刺激の認知要因 (刺激の言語化と知覚的同定), 反応要因 (言語反応と知覚的選択), 年齢要因 (5才児, 6才児, 8才児) の3要因をとりあげた。各年齢水準で4条件群について, マトリックス課題10項目の遂行水準に関して比較検討した。 結果は, 年齢要因では課題遂行水準に年齢たよる顕著な差異がみられたが, 認知要因, 反応要因による差異は 6才児に関してのみ有意であった。6才児についての結果は, 認知要因の刺激言語化条件が, 刺激を知覚的に同定する条件よりも課題遂行に促進効果をもち, 反応要因では, 言語反応条件が選択肢の中から選ぶ条件よりも促進的であることが示された。しかし, 言語化の効果は, 反応が言語による条件のときに顕著であり, 選択肢から同定する知覚的選択条件になるとこの効果が干渉をうけることが示された。 実験IIでは, 実験Iにおける言語化の効果が, 反応要因と独立に効果をもち得るのか, また, 新しい刺激について転移効果をもつかについて検討した。実験手続は, 重複分類操作が十分に獲得されていないと考えられる被験者について, マトリックス刺激の言語化訓練群, 非言語化訓練群の2群で, 学習遂行程度および転移課題について比較した。反応様式は, 両群いずれも6選択肢からの選択反応とした。 結果は, 言語化訓練群は, 非言語化訓練群に比べて学習基準達成が有意に速く, 転移課題についても遂行水準が高いことが示された。言語化訓練群では, より高次の転移課題で非言語化群との差異が大きくなる傾向がみられた。 以上のようなマトリックス刺激言語化の促進効果に関する結果に基づいて, 重複分類遂行の過程における言語化の機能とそれらの認知発達水準との交互作用について考察がなされた。