本実験は, 同時弁別課題を用いた観察学習において, 観察者がモデル観察中に行う, 弁別課題の適切・不適切次元に対する言語化と, モデルの反応様式の違いが, 観察学習にそれぞれどのような効果をおよぼしているのかを検討するために行われた。その際, 言語化の条件としては, 課題の適切・不適切各次元に対する言語化条件と言語化なしの合計3条件が, また, モデルの反応様式としては, 試行中75%, 25%の正答をそれぞれ示すモデルの2条件が用いられた。被験児は小学校2年生児童 (平均年齢8才2か月) 66名である。 主な結果は以下に示す通りである。 1) モデル観察直後にモデルと同じ課題を行うテスト試行では, 正答を優位に示すモデル (正答75%群) の方が, 誤答を優位に示すモデル (正答25%群) よりも観察学習の成績は良く, 言語化の条件による差は認められなかった。観察学習の成立には, モデルの反応様式が反映されていた。しかしながら, 統計的に有意ではないものの, モデルが誤答を多く示し, 刺激が複雑な場合には, 課題の適切次元に対する言語化に効果があるのではないかということが示唆された。 2) モデルがもはや存在しない時に, モデル観察時と同一のルールで別の課題を解くという転移試行では, テスト試行とは逆に, モデルの反応様式によっては学習の差は生じず, 観察者による, モデル観察時の言語化の内容によって学習成績に差が生じた。すなわち, モデル観察時に課題の適切次元に対して言語化を行った被験児は, 他の2条件の被験児よりも学習が速やかに行われた。 これらの結果は, 観察学習の成立は, モデルの反応様式という, モデルの持っている特性に対する観察者の注意によるところが大きいが, その保持には何らかの言語的な表象過程が関与しているということを示している。