言語音を文字で書きあらわすことができるためには, どのような条件が必要であるかを調べた。実験Iでは, 単音節の音声に対応した文字反応 (構成) ができることが直ちに2音節の音声に対して文字反応ができることを意味しないという結果が示された。被験児はこの段階では, 絵カードと文字カードを対応させたり, 2音節言語音を文字カードと結びつけることがごくわずかしかできていない。また, 文字カードの文字を読んだり, 絵カードの絵の名称を発音することもほとんどできないことがわかった (実験I-(a)~(d))。そこで, これらを学習させる条件を導入すれば正の文字反応がなされるかどうかを調べた。実験IIで, 絵カードと文字カードの結合および絵の名称の発音を同時に学習させた結果, 文字反応が可能であることがわかった。次に実験IIIで, 絵カードと文字カードの結合を学習させ, これの効果を調べた結果, 約70%の正反応が得られた。しかし実験IVで, 絵の名称の発音を学習させたが, 正反応は全く得られなかった。以上の結果より, 実験IIにおける学習が文字反応に効果をもたらすことが明らかになったが, 被験児は発音の学習に困難が伴なうので, 異なる学習が導入された。実験Vでは, まず文字カードの各文字を1字ずつ区切って読ませる。発音の正否は問わず, 被験児が読めなければ復唱させ, 次た絵カードに結びつけさせる。更に, 絵カードを呈示して文字カードの中から選択させる。この学習ができた後に, 2音節の言語音に対応する文字反応をやらせた結果, 100%の正反応を得た。従ってこの学習条件は, 本被験児が文字反応を行うのに実験IIにおける学習より有効であると言える。