本研究は, 観察学習においてモデルの反応に与えられる代理強化を幼児がどのような認知様式に基づいて認知するのかを査定するために行われた。本研究ではモデル指向様式と課題指向様式という2つの認知様式を区別した。モデル指向様式とは, モデルの反応に対して与えられる個々の代理強化にはあまり注目せず, もっぱらモデルが承認されたか, それとも否認されたかを代理強化による情報に基づいて判断しようとする観察者の様式である。課題指向様式とは, モデルの反応のうちどれが代理強化され, どれが代理強化されなかったかということに注目し, これら2つの反応を積極的に弁別するために代理強化による情報を利用しようとする観察者の様式である。 観察者は平均年齢5歳5か月の幼児60名であった。彼らは, モデルが18対の日常品を描いた線画のうち動物 (または食物) の概念カテゴリーに属する事例を選択するのを観察した。そのあとモデルとの自発的な一致反応を査定する遂行テストとモデルの反応を再生する習得テストとを受けた。彼らは代理強化の与え方において異なる5つの実験群のいずれかに割り当てられた。NVR群では, モデルの反応に全く代理強化が与えられず, 100%VR群では, モデルの全反応に対して代理強化が与えられた。ランダム50%VR群の観察者は, モデルの反応のうち50%に対してランダムに代理強化されるのを観察した。また前半50%VR群においては, モデルの反応のうち前半9対に対して代理強化が与えられ, 逆に後半50%VR群においては, モデルの反応のうち後半9対に代理強化が与えられた。 主な結果は次の通りである。(1) 前半50%VR群とランダム50%VR群の観察者は, 後半50%VR群, NVR群および100%VR群の観察者よりもモデルとの一致反応を有意に減少させた。(2) 習得テストでは, 5群間に有意差は得られず, モデルの反応はどの群においてもほぼ等しく習得されていることが示された。(3) 前半50%VR群とランダム50%VR群では, 習得テスト得点が遂行テスト得点よりも有意に高く, これらの群において観察者がモデルとの一致反応を制止していることが分った。(4) 3つの50%代理強化群について, モデルの反応のうち代理強化された反応と非強化反応との模倣遂行数には有意差は見出されなかった。これは, 代理強化された反応と非強化反応に対して観察者が弁別的に模倣しなかったことを意味している。 以上の結果から幼児は, われわれが仮定した代理強化に対する2つの認知様式のうち, モデル指向様式に基づいて代理強化を認知していることが明らかにされた。