本研究の目的は, 父親の職業が息子の職業選択に及ぼす影響を, 父親の職業の継承性の観点より分析することにある。 広島・愛媛・島根の3県の男女の中・高校生5, 666名を対象として, 親の職業, 親の期待職業とその理由, 子どもの希望職業とその理由など, 15問30項目からなる調査を実施した。本論文では男子中学生1, 477名, 男子高校生1, 537名の合計3, 014名の資料が分析された。判明した主な結果は, つぎの通りである。 (1) 父親の職業に対する息子の継承希望は, 当該職に親が就いていない息子による当該職への就職希望に比べて, ほとんどの職業において有意に高く, したがって職業の継承志向性を認めることができた。特に高い継承希望率を示すのは, 専門的・技術的職業および公務員である。 (2) 父親が当該職にある場合の継承期待を, 父親が当該職にない場合の就職期待に比べると, すべての職業において父母双方の継承期待が有意に高い。特に高い継承期待率が医者, 教師, 小売店主, 土木・建築技師, 公務員, 町工場主に認められる。 (3) 息子の継承希望には, 出生順位による相違がまったく認められない。しかしながら親の継承期待は, 非長男よりも長男に対して高い傾向が示された。また発達的には, 年少段階において親の影響がより強く現われるものと予想されたが, 結果的には支持されなかった。 (4) 両親からの継承期待をになう息子は, いずれか一方の親の継承期待をになう息子, あるいは両親の継承期待をまったく受けない息子に比べて, その継承希望率が有意に高い。したがって父親の職業の継承過程には, 親の継承期待が媒介していると解することができる。