本研究の目的は, 都市域の子どもが各々の行動圏について表象するイメージマップが, ルートマップ型 (RM) からサーヴェイマップ型 (SM) へ発達的に移行することを明らかにし, さらにその移行に関与する要因を考察することである。RMかSMかの判別は, 交差点表象の分節化がランドマークの表象系列に関連するのか (RM), 道路網という準拠枠に関連するのか (SM) に依って決定した。 調査地域は, 大阪府豊中市S小学校校区であった。被調査者は, 同小学校児童の中で同一地区に居住する1年から4年までの男女計48名 (各学年; 12, 14, 11, 11名)。 イメージマップの再現方法は, マップスケッチ法と言語描写法を併用した。調査は, 面接者が地図の描き方を教示すると同時に, 再現反応を促進するように工夫された面接法を採り, 録音記録された。分析方法は, 再現内容を要素に分け, 個々の再現内容が実際に環境と正しく対応しているかについて検討する方法を採った。指標は, 交差点表象の分節化の指標である交差点スコア (CR) と交差点エラーCRE), 道路網のネットワーク化の指標である網目数 (M), それにランドマークスコア (LM) であった。 結果は以下の通りであった。 1. 1年次のMの中央値はゼロであり, M, CR, LMのいずれも2年より有意に低かった。 2. 2年ではCRとLMの間に有意相関があり, 3年と4年ではこれと交替するようにCRとMの問に有意相関が見られた。 3. 2年と3年の間のひ検定の結果, Mには有意差があったが, LMにはなかった。 4. 3年と4年の間のひ検定の結果, LMには有意差があったが, Mにはなかった。 以上の結果から, 2年次まではRMで, 2年からRMのネットワーク化が始まり, 3年次になると道路網を準拠枠としてSMへ変容するがランドマークの再体制化に成功しておらず, 4年次にSMへの再体制化が進むと考えられた。SMへの変容に関与した要因は,(1) RMの累積によるRMの部分的ネットワーク化,(2) 空間表象能力の発達, などの基礎的要因に加えて変容促進の契機として (3) 3年の社会科における校区の地図を用いた学習があると考えられた。