構造性をもった文章としての物語の理解に影響する先行情報として, 物語が扱われる話題の中心的問題と提起するFrame情報と, 通常は物語の中に含まれ, 話題が展開する場面や主人公を紹介するSetting情報をとりあげた。前者は, 理解の枠組みを, 後者は, 被験者のもつ物語シェマを一定の方向をもって賦活させる機能をもつと考えられる。 本実験は, これらの先行情報を与えることが情報そのものの重複による効果を越えて, 後続する物語理解のための認知的枠組みを形成することによる理解の促進効果をもつものか否かを検討することを目的として企画された。アンデルセン原作の「パンをふんだ娘」のTVシルエット動画を材料とし, 先行して与える情報による理解度の差が分析された。被験者は小学校2年生80名, 先行情報条件により, Frame+Setting群, Frame群, Setting群, 統制群の4群に20名ずつ割り当てられ, 集団で実験が行われた。直後と一週間後の理解テストの結果から次のようなことが明らかにされた。 (1) 物語理解は, 物語の構造部位によって異なり, 中心話題での理解は先行情報の有無にかかわらず優れている。 (2) 物語の背景を示すSetting情報は, 単独では物語理解を促進する効果は少なく, 全体理解のための十分な枠組みを提供するとはいえない。(3) 問題提示を内容とするFrame情報は, 単独では, 情報の重複による理解の促進効果ももたず, 全体理解の枠組みとしての効果も示さなかった。 (4) Frame情報とSetting情報を共に与えた場合には理解テストでの成績の上昇がみられ, これらが枠組形成の機能を果たしていることが明らかとなった。 これら両情報による枠組み形成は, Frame情報によって問題解決過程として物語を処理する枠組みができ, Setting情報によりその解決過程としての物語処理に一定の方向性が与えられたためだと考察された。