本研究は, 文章完成テストに投映された老年群と青年の自己認知概念を中心にした心理特徴面を比較することにより, 老年期の自己概念の諸特徴を世代差, 性差の観点から追求することを目的として行われた。 対象者は, 青年群は私立大学生男112, 女112, 計224 名である (年齢範囲18~25才)。老年群は居宅老人男110, 女89, 計199名である (年齢範囲69~71才)。社会経済条件は両群共平均かそれ以上に属している。 結果: 家庭イメージでは, 両群共約半数の者は肯定的表現をしているが否定的反応では青年群の方が多く, 中立的客観的反応では老年群の方が多い。友人イメージにおいて, 肯定的反応は青年群女に多い。老年群では肯定反応とほぼ同率で客観的反応がなされておりそれは老人女に多い。体イメージでは, 青年女子が健康等の肯定反応が多く, 老年群では否定的な表明は老人女性に多い。加齢イメージにおいては性差, 世代差は示されなかった。 過去および現在の自己イメージでは青年群に否定的自己記述が多く示された。だが未来の自己イメージでは, 老年群は肯定および否定反応に集中しているが, 青年群は過半数の者が肯定的な未来志向を示していた。 生と死イメージは, 老年群のみに性差が示され, とくに女性老人の否定的表明が特徴的であった。次に生きる喜びを老年群は家族との交流や自己の健康面に求めているが青年群は物事の達成による充実感覚に喜びを求めている。また青年群は自分の人生に対して肯定的表明を示しているのに比し老年群は客観的記述が多い。 以上の両群の諸特徴は世代差, 性差の観点から考察された。すなわち世代的差違として青年群に示された心理特徴面は, 成人として自我を確立してゆく過程の中で, 種々の観点からの自己省察の機制が反映していると解釈された。これに対し老年群の肯定した自己の受け入れ等の特徴は, 自我の統合性の段階を反映していると推定される反面, 自己の未来に対して冷静, 否定的であるといった面や家族という縮少した世界の中で安定しているという面は日本の老年期特有の心的特性が表明されていると考察された。