本研究は精薄児と健常児を対象に, 同一次元内で操作された手がかり類似性が弁別逆転学習に及ぼす影響を精神発達との関連をふまえて比較検討することを目的とした。このため, 実験は手がかりの類似度が低いと考えられる円-三角形条件と, 高いと考えられる円-楕円条件の2条件を設定し, 形次元のみを適切次元として実施した。 その主な結果は以下の通りであった。 1.低MA(IQ)段階(MA5・6~7歳)において, 原学習所要試行数は円-三角形条件群に比べ円-楕円条件群が多かった。これは精薄児, 健常児群ともに言えた。また後学習についてみると, 精薄児群は円-三角形条件群, 円-楕円条件群とも健常児群に比べて多くの試行数を要した。 2.高MA(IQ)段階(MA8~10歳)をみると, 円-三角形条件群では, 精薄児群, 健常児群ともに, 原, 後両学習の所要試行数が低MA(IQ)段階に比べて減少した。円-楕円条件群においても, 精薄児群の所要試行数は低MA(IQ)段階より少なかった。しかし, この傾向は健常児ほど顕著ではなかった。 3.原学習と後学習の所要試行数の分布から弁別逆転移行の難易をみると, 低MA(IQ)段階の精薄児群は両条件群とも健常児群に比べて逆転移行が困難であった。高MA(IQ)段階になると, 精薄児群は健常児群ほどではないが, 逆転移行が容易になった。 4. 手がかり名を適切に言語報告した被験児の割合について比較すると, 低MA(IQ)段階では, 精薄児群, 健常児群とも両条件群において50~60%であり, 顕著な条件差, 被験児差はみられなかった。高MA(IQ)段階の円-三角形条件群では, 両被験児群とも低MA(IQ)段階に比べて割合が増加した。これに対し, 円-楕円条件群における精薄児群の増加は, 健常児群のそれに比べて少なかった。 以上から, 精薄児, 健常児とも媒介型反応様式に至らない段階では手がかり類似性の影響を受け, 弁別逆転学習が困難になること, また精薄児はMA水準が高くなると媒介型反応様式が可能になるが, 依然として手がかり類似性のような知覚的要因の影響を受けやすいことが示唆された。