本研究の目的は, 幼児が語の読みを習得していく際の視覚的弁別及び解読過程を検討することであった。まず, 実験Iでは象形文字の持つ対象との類似性が視覚的位相から意味的位相への解読を促進するという仮説を検討した。そしてこの解読は読みを習得する速度を速めるが, 読みを反復する過程では効果を持たないという結果が得られた。次に, 実験IIでは仮名の文字数と有意味性を操作して, 視覚的弁別との解読の両過程を読みの反復に関して検討した。その結果, 有意味性は解読を促進するが, この促進効果は2文字よりも4文字条件に於てより大きく働くことが確認された。さらに, 実験IIIでは漢字の画数と有意味性 (音読み, 訓読み) を操作して, 視覚的弁別過程と解読過程を, 読みを習得するまでと反復する場合について検討した。そしてこれらは両過程は習得及び反復の何れに於ても独立して進行するという結果が得られた。これらの結果は, 語の表記形態により視覚的弁別, 解読の両過程は異なるものではあるが, 幼児の読み習得が本質的には, 常に意味への還元へと向けられているというひとつの証拠と考えられる。