本研究は, 老人の記憶機能を測定するテストの作成を目的として行われた。 1. テストの作成諸外国および日本で作成された66の知能テストから, 主として記憶テストと分類された下位検査を参考にして, 刺激材料に多様性を持たせること, 老人の持つ視覚や運動機能等の障害に留意して, 当初10 の記憶テストを作成し, これらのテストの項目を正答率, 得点分布, 各テストと合計点との相関等から検討し, 形式の統一, 項目正答率の調整を行い, 色板の記憶, 文章の記憶, 順唱, 単語の記憶, 点配置の記憶の5テストを採用した。 2. 信頼性・妥当性の検討記憶テストと同時にWAIS の一般的理解, 単語問題, 積木問題, 組み合せ問題の4 下位検査を老人262名 (男110名, 女152名, 年齢60~96 歳, 平均74.6土5.63歳) に施行した。信頼性はCronbach のα係数および5記憶テストの因子分析から実証された。 次に妥当性の検討は, 記憶テストとWAISの4下位検査から行われ, 3つの記憶因子が抽出され, 言語的記憶, 空間的図形的記憶, 純枠記憶スパンと命名された。 学歴・年齢・痴呆度と5つの記憶テストおよびその合計点の間には相関関係が認められた。性差に関しては, 記憶合計点でみると性差は認められないが, 下位検査では単語の記憶と点配置の記憶で性差の影響が認められた。