本研究は, 児童に対する教師の勢力資源の内容と各資源の影響度に関する間題について, 影響を及ぼす側の教師とそれを受け入れていく児童の双方の立場から検討しようとするものである。 研究1の目的は, 教師の側で認知している児童に対する教師の勢力資源の内容を明らかにし, ついで個々の資源による児童への影響度に関する教師の認知を教職経験の長短の観点から分析することであった。 224名の小学校教師を対象に,「児童が日ごろ先生の言われることをよく守ったり, 指示に従ったりする」ことの理由を100項目提示し, 各項目が理由として該当すると思う程度を5段階で評定させた。 主な結果はつぎのとおりであった。 1) 教師が認知した児童に対する教師の勢力資源は,「罰」「外面性」「人間的配慮」「正当性」の4つであった。 2) 教師は, 児童に対する各勢力資源の影響度を,「正当性」≒「人間的配慮」>「罰」>「外面性」の順に認知していた。 3) 各勢力資源に関して認知する児童への影響度の相対的大きさについては, 教職経験の長短による差はみられなかった。 4) 教職経験が5年未満の教師は, 15年以上の教師より,「正当性」資源の児童への影響度を高く認知する傾向がみられた。 研究2の目的は, 児童の側で認知している教師の勢力資源の内容を明らかにし, そのうえで, 児童が, 教師の認知した各勢力資源にそった影響を現実にどの程度受け入れているかについて学年段階の観点から検討することであった。 小学4年生, 5年生, 6年生, 計396名を対象に, 研究1で用いられた評定項目を削減した50項目を提示し,「先生の言われることを守ったり, 指示に従ったりする」ことの理由として該当する程度を5段階で評定させた。 主な結果はつぎのとおりであった。 1) 児童が認知した教師の勢力資源は,「人間的配慮」「外面性」「罰」の3つであった。 2) 教師が認知した4つの勢力資源に基づいて, 児童の側で認知する被影響度を分析したところ, 4年生は5年生や6年生よりも, 全体としての教師からの被影響度を高く認知していた。 3) 個々の勢力資源に基づく被影響度の認知は,「正当性」>「人間的配慮」>「罰」>「外面性」の順であった。 4)「正当性」「罰」「外面性」の各資源に基づく被影響度の認知は, 学年段階の進行に伴って低下するが,「人間的配慮」資源に基づく被影響度の認知は逆に上昇していた。 以上の研究1と2の結果に基づき, 教師の勢力資源の内容とその影響度に関する教師と児童の認識の異同が比較考察された。