本研究では, Spranger (1966) の価値類型 (理論・経済・審美・宗教・社会・権力) に基づき筆者らが開発しつつある価値志向性尺度に, 項目反応理論を適用した。6つの価値に対応する6下位尺度それぞれの中には, より理念型に近い状態を表現した項目 (理念型的項目) と, より一般的に見られる特質を表現した項目 (標準型的項目) とが混在している。これらの6下位尺度に2パラメータ・ロジスティックモデルを適用した場合, そのような2種の項目間の関係が一次元的であるならば, それらの項目特性曲線同士は, 困難度の差に従って並行になると思われる。筆者らはこのような並行関係を, “一次元的階層性”と名付けた。価値志向性尺度の6下位尺度それぞれにおいて, そのような一次元的階層関係が成り立っている項目対が抽出された。これらの項目対は, 実際の反応率においても明らかに異なっていた。さらに, 各被験者の各項目への回答に関する説明を分析し, 項目の統計的性質がどのような項目内容に基づいているか, 質的に検討した結果, 困難度の高い方の項目は, 実践するのがより困難であるような内容を含み, 各価値志向性がより高度に発展した, より理念型的な状態を表現していた。