論文×評定者×観点という3相の論文評定データに, 多相Raschモデルと分散分析モデルを適用し, データの整合性の視点から問題となる特異な評定値の検出結果に関して両モデルを比較検討した。データとしては, 教育心理学の卒業論文の要旨25編を, 大学院生10人が5つの観点について5段階評定したものを用いた。特異な評定値の検出には, いずれのモデルにおいても, 実際の評定値とモデルから期待される評定値との残差が用いられる。得られた結果から, 評定値の特異性のタイプによってモデル間で検出精度にやや違いがみられるものの, 両モデルの残差は非常に高い相関を示し, 両者の性質はほぼ同じものであることがわかった。この類似性は, モデルの適合度を様々に変化させた人工データでも確認された。論文を含む交互作用を考えない多相Raschモデルとの比較のため, 分散分析モデルについては主効果モデルが用いられたが, 実際のデータにおいて論文×評定者の交互作用を調べたところ, 無視できないほど大きな交互作用があることがわかった。そこで, 論文×評定者の交互作用を含む分散分析モデルによって特異な評定値の検出を試みたところ, 主効果モデルでは複数の交互作用が相殺されたために検出できなかった特異な評定値を一部検出することができた。このように分析目的に応じて柔軟に交互作用をモデルに組み込めることや, 分析に必要なデータの大きさ, さらにソフトウェアの利用し易さなど, いくつかの点で分散分析モデルの方が多相Raschモデルより実用的に優れていると判断された。