本研究の目的は, 対人葛藤場面においてネガティブな状況を生じさせた側の敵意の有無と, この状況をもたらされた幼児の社会的問題解決方略との関係を発達的に検討することである。4歳, 5歳, 6歳計130名の園児たち (男女約半数ずつ) はあらかじめ相手の敵意あり・なしの2グループに分けられ, 仮設の対人葛藤場面において問題解決として用いる応答行動 (社会的問題解決方略) について質問された。幼児の回答より得られた5つの社会的問題解決方略の分散分析を行った結果,(1) 4・5・6歳児いずれにおいても対人葛藤状況を引き起こした相手の敵意の有無を理解・認知していた。(2) 各社会的問題解決方略は, 年齢があがるに従って非言語的・他者依存的方略から言語的主張・自律的方略へと質的に変化していた。(3) 相手に敵意がある場合は言語的主張方略が多いのに対して, 敵意のない場合は言語的主張方略に加えて消極的方略が多く選択されていることが示された。特にその変化は5歳児と6歳児の間で明らかであった。(4) 6歳児では相手に敵意がない葛藤状況では, たとえその状況を自分にとってネガティブな場面であると認知していても, 消極的な問題解決方略を選択すると認知していることが示された。本研究の結果から, 幼児の対人葛藤場面における相手の敵意の有無と社会的問題解決方略とは関連性の高いことが社会的認知の側面より示唆された。