本研究では, 抽象的知識を教訓という位置付けで提示することが類推による問題解決を促進するかどうかを検討した。実験では, 「弱い力の多方向からの集中」という原理によって解決される収束問題とその原理を含む収束物語を用いた。実験1では, ベース領域を以下の4つの方法のいずれかで被験者に提示した。収束物語のみ (統制条件), 収束物語および教訓という位置付けで提示された抽象的知識 (教訓原理条件), 収束物語および問題解決の方法という位置付けで提示された抽象的知識 (方法原理条件), 収束物語およびその物語がある教訓を表わすという考え (教訓のみ条件)。その後で, 被験者に収束問題を解くよう求めた。実験の結果, 自発的類推による正答率に関して, 教訓原理条件が他の3条件よりも有意に高かった。このことから, 抽象的知識を教訓という位置付けで提示することは自発的類推を促進するが, 抽象的知識と教訓という位置付けのどちらかでも欠けるとそのような効果は得られないことが示された。実験2では, 教訓のみ条件とほぼ同じ条件下で, 被験者に教訓を自ら産出することを求めた。実験の結果, 自発的類推による正答率は, 教訓原理条件でのそれとほぼ同程度にまで向上した。