教育心理学研究において, いくつかの群の差異の原因を考える際にはしばしば多母集団の因子分析を行い, 因子平均の差異で観測変量の差異を説明することが試みられる. しかし, 既存の統計的手法による因子平均の群間差の検定では, 群ごとに因子平均が異なるモデルと同じであるモデルの比較をするという間接的なχ2検定を用いる. この検定は漸近理論を用いているため, データが大量に存在することが前提となるが, 教育心理学研究においてはそれが望めない場合が多い. 本研究ではベイズ的アプローチによって, 平均構造付きの多母集団因子分析モデルと, 因子平均の群問差, 線形対比の事後分布を数値的に導出する手法を提案した. 導出された事後分布によって, 点仮説が信頼区間の中に存在すれば保持し, そうでなければ棄却するという有意性検定が可能である. この方法により片側検定も可能になる. またχ2検定では不可能な第一種の誤りの統制が可能であり, ヘイウッドケースが存在しないという利点がある. 既存のχ2検定と今回提案されたベイズ有意性検定を比較するため, シミュレーションによる検定力の比較を行った. 実データへの応用例として, WAIS-Rの素点の横断データを用いて加齢による変化を解析し, 既存の手法では扱えない複合仮説の評価を行った.