本研究では, 小学生の高さのプリコンセプションを変容させる教授ストラテジーについて検討した。教授ストラテジーは, Hashweh (1986) の概念変容モデルを基本的枠組みに据え, 算数の授業で教授される高さの概念に適用可能となるように修正した。実験では, 事前テストにより抽出された「内包型」又は「鉛直型」のプリコンセプションをもつ5年生54名を2群に分け, 1群には「図的表象」のレベルで (教授1), もう1群には「日常的表象」のレベルで (教授2), それぞれ, プリコンセプションを意識化させた上で数学的概念と関連づけた。事後テストの結果, 教授1を受けた学習者の多くは, 教授された数学的概念が, 既有のプリコンセプションと関連づけられなかったり, 逆に取り込まれたりする現象が見出された。一方, 教授2を受けた場合には, 多くの学習者のプリコンセプションに変容が見られた。これより, 高さのように日常的によく用いられる基本的概念の場合, 概念の外延の範囲を数学的な事例だけではなく, 日常生活の事例にまで広げ, プリコンセプションが生じたルーツに働きかける方略が概念変容に有効であることが示唆された。