臨床・教育心理学の分野で,“回避方略”は, ストレス状況の解決や不快情動の緩和, 学業達成などを阻害するものとして, 非適応的な方略だと主張されてきた。しかし, 気晴らし, 援助要請行動の回避, セルフハンディキャッピングといった回避方略を取り上げて実際の先行研究を概観する限り, 結果は一貫しておらず, この命題が確実に支持されているとは言い難い。そこで本稿では, 上記の命題を批判的に検討した上で, 回避方略の非適応性を捉えるための視点を提出することを目的とした。具体的には, 同じ“回避方略”であっても,“目標・意図レベルの回避”と“行動レベルの回避”を分けて考える必要性を示唆した。その上で, 従来の研究の非一貫性を説明するため,“たとえ行動レベルで回避的な方略であっても, 目標レベルで回避的でなければ非適応的にならない”という仮説を提出した。この仮説を検証するため, 先行研究を改めて概観し, いくつかの支持的な証拠を得た。また, 著者らが直接実施した調査データからも, この仮説が支持された。最後に, 臨床・教育実践の観点から, 本稿の意義が検討された。