本研究は日常経験知と矛盾する科学的概念を学習した中学生を対象に, 両者の矛盾関係の解消を目指した説明を求める半構造化面接を実施し, この中で対立する日常経験知をどのように関連づけるのかという視点から, 概念理解の実態を検討したものである。予備調査の質問紙で科学的概念を支持した被験者 (科学群) に対しては日常経験知に基づいた情報を, また素朴概念を選択した被験者 (素朴群) に対しては, 科学的概念に基づいた情報を提示して, それぞれの矛盾を解消するよう求める対話に参加してもらった。その結果, 矛盾を解消できた者 (解消群) とできなかった者 (不解消群) に分かれた。科学解消群では論理的な解釈によって両者の矛盾情報を統合するような説明を, 科学不解消群では日常経験知を無視するような説明を, また素朴不解消群においては科学的概念と日常経験知を適用する文脈を分離させるような説明を行う傾向にあった。本研究ではこれらの傾向を, 日常経験知の「調整」「圧殺」「すみわけ」と名づけ, パフチン理論の立場から「調整」を, 学校教育において目指されるべき概念理解活動として位置づけた。