本研究では, 社会的領域理論の観点から, 攻撃行動に対する幼児の善悪判断に及ぼす社会的文脈の影響について, 実験的に検討を行った。研究1では, 幼児が, 報復的公正の問題に理解を示すかについて検討を行った。幼児に, 被害の回避を目的とした攻撃と復讐を目的とした攻撃に対する善悪判断を求めた。結果として, 幼児は, 被害の回避という直接的な利益をもたらす攻撃よりも, 何ら直接的な利益をもたらすことのない復讐を目的とした攻撃を許容する傾向にあった。幼児でも, 報復的公正の問題に理解を示す可能性が示唆された。研究2及び3では, 擁護及び制裁を目的とした攻撃に対する善悪判断が, 道徳と慣習のいずれの思考によるのかを検討した。結果として, 幼児は, 他者の福祉の問題よりも, 権威者である保育者の反応を重視して, 攻撃の善悪を判断することが明らかとなった。しかしながら, 年長児の中には, 他者の福祉の問題を重視する者も少数ながらいた。児童期以降, 慣習領域の思考から道徳領域の思考へと, 発達的な変化が認められる可能性が示唆された。