本研究では, 小学理科5年「ものの溶け方」という特定の科学領域の単元を対象とし, 子どもたちの「溶解現象における質量保存の概念」の獲得を促すために,『相互教授』と『概念変容教授』を関連づけた学習環境を考案した。これらの学習環境下で生成された.特定の個人の一連の発話と行為を追跡し, 認知的および社会的側面における要因の観点から詳細に分析した結果.以下のようなプロセスを経て概念変化が促されていくことが示唆された。(1) 認知的側面: 目に見えない物質の溶解現象を可視化する『自己生成アナロジーモデル (微視的モデル)』を認知的道具立てとして用いながら,「関係ベース」から「モデルベース」へと推論活動が移行していく過程において,『概念変容教授』で提示された「分かり易い」「多くの反証事例に一貫している」という特徴を持った新情報 (科学的概念) が受容されていった。(2) 社会的側面: 参加者相互の理論構築のプロセスを集積した『理論チャート』を文化的道具立て (議論ツール) として用いながら,『相互教授』の「参加者の構造の役割」で責任を担う文脈において,「説得力のある言葉」を巡る「権力」の駆け引きが生じ, 表層的ではない真の概念理解が達成されていった。