本研究では, Tsai (2000) のコンフリクトマップの理論的枠組みを, 高校物理「波の性質」の学習に適用し, 内容的一貫性を持った実験・観察を, 一連のネットワークに沿って提示するという教授方略を開発し, その教授効果を実証的に検討した。授業前後の質問紙による内観報告と, 実験・観察場面における行動観察の観点から質的分析を行った結果, 以下のようなプロセスを経て, 概念変化が促されていくことが示唆された。まず,「現実世界」において, 信頼性が高く確からしさが疑われないデータとして,「先行概念と矛盾する事象」を直接的に観察することを通して, 自らの考えが妥当ではない可能性に気づいていく。続いて,「科学的概念をサポートする知覚的事象」として, 日常的に経験している事象と結びつけられた実験・観察を知覚的に経験した上で, それをいったん数の領域ヘマッピングし, 数の領域でも物理現象の因果関係を確認するという, 手続き的知識を伴った作業を通して, 分かったと体感したとき, 存在論的カテゴリーの変化がもたらされる。「現実世界」のみならず「思考世界」においても,「科学的概念を説明する決定的な事象」,「科学的概念に関連する適切な他の概念」として, 科学的概念がなぜ適切なのかが, 多角的視点から一貫性を持って保証されることで, 真の科学的概念の理解が深まっていく可能性が示唆された。