本研究は, 高齢者の説明文記憶において, 標識の明示性を高めることが, 体制化方略の変更を支援し, 構造的に体系化する方略を駆動することで, その所産である説明文の記憶をも支援するという仮説を検証した。この検証にあたって, 高齢者 (平均年齢69-77歳) と大学生 (平均年齢21.57歳) に対して, 文配列課題, 再生課題, 再構成課題を行った。結果から次の2点が示された。第1に, 体制化過程で現れる修正的な配列の出現頻度を体制化方略の変更の測度とみなして分析したところ, 標識の明示性に応じて高齢者の方略変更を向上させ, 加齢差が緩和されることが確認された。第2に, 標識の明示性によってもたらされた高齢者の方略変更がその所産である説明文記憶を規定するという効果過程が確認できた。特に, 明示性の高い標識は, 高齢者の体制化のレベルと, 含意された通りに後で再現する再構成のレベルをともに向上させる一方で, 明示性の低い標識ではそれらへの効果が弱まることが示された。以上から, 標識に視覚形式を付加して明示性を高めると, 高齢者の体制化方略の変更を支援し, その所産である説明文の記憶をも支援することが示された。