近年の自己概念に関する研究では, 人が自己評価する際に用いる準拠枠の重要性が指摘されている。能力的には同様の生徒であっても, 個人が自分自身を評価する際に使う準拠枠によって, 異なった学業的自己概念が形成される。本稿では, 社会的比較という準拠枠を用いた学業的自己概念の形成, つまり Marsh (1987) が提唱した“井の中の蛙効果”に関する研究を概観する。Marsh (1987) は, 個人の学業水準をコントロールした場合, 学業的自己概念は学校やクラスの学業水準とは負の関係にあることを見いだし,“井の中の蛙効果”と呼ばれる概念を提唱した。これは, 同じ成績の生徒であっても, 良くできる生徒ばかりの学校あるいはクラスの中では, 優秀な生徒たちとの比較のために否定的な学業的自己概念を形成し, あまりできない生徒ばかりの学校やクラスの中では, レベルの低い生徒たちとの比較のために好ましい学業的自己概念を形成しやすいという現象のことである。本稿では, Marshが提唱した“井の中の蛙効果”について広く概観した後に,“井の中の蛙効果”研究についての問題点と今後の展望について述べていくことで,“井の中の蛙効果”に関する諸研究を統合的に検討することを目的とした。