発症から3年以上経過した55名の慢性期の失語症者を対象とし,患者個人の要因が適応に及ぼす影響について,SLTA,CADLとの関係を中心に検討した。その結果,言語機能の障害の程度にかかわらず本研究の定義による適応良好例は存在し,適応の良好か否かとSLTA得点, CADL得点の間に一定の関係は認められなかった。SLTA得点とCADL得点との相関はBroca失語で最も高く,次いでWernicke失語,失名詞失語の順であった。また,言語機能の障害が軽度な例では適度な要求水準の高さ,病前性格 (循環気質) などが適応良好の要因として重要であった。一方,言語機能の障害が重度な例では上機嫌,深刻味の欠如といった器質的人格変化が要求水準を適度なものとし,社会的内向に陥らせず,家族の理解とともに適応良好の肯定的要因となっていた。障害の程度により,適応に影響を与える要因が異なることが示唆された。