軽度の感覚失語と漢字に強い失読失書を呈した1症例の発症1か月から1年6か月までの経過と,既報告例との比較検討を行った。 症例は74歳の男性で,初期には中等度の失語に漢字に強い失読失書を示した。その後,軽度の失語と漢字の失読失書となり,仮名はごく軽度の失読のみを残した。左側頭葉後下部を中心とした損傷による失読失書の報告例の中で,経過を追ったものは本例を加えて13例であった。 13例の初期における特徴をまとめると,4つのタイプに分かれた。その経過からは,仮名の失読失書の予後が比較的良好であるのに比し,漢字の失読失書は残存する傾向を示した。本例とわれわれが先に報告した類似の症例の,漢字の画数別音読の誤り傾向からは,左側頭葉後下部型の漢字の失読失書は,形態類似読みを特徴とする純粋失読型と,漢字の部分読みを特徴とする同時失認型に二分されると考えた。