語の意味の選択的障害を,語義失語像を呈する葉性萎縮7例およびヘルペス脳炎1例で検討した。前者では,再認の障害がみられる語に一貫性があり,語頭音効果に乏しく,かつ補完現象が認められないことより,語彙そのものの喪失・貧困化あるいは語の意味が表象として成立しえない状態が,一方後者では,再認の障害がみられる語に浮動性があり,語頭音効果もしばしばみられ,かつ補完現象が顕著に認められることより,語の名と意味の共生関係の障害あるいは語の意味表象の薄弱化か,その病態機制であると考察した。前者では,全例左側頭葉前方部に限局性の著明な萎縮がみられ,機能不全部位はさらに中間部にまで及び,右側頭葉により強い萎縮を有する1例では相貌の認知障害をも有していた。後者でも,左側頭葉前方部が主として障害されていた。文献的考察をもふまえると,語の意味記憶を担う神経基盤として優位半球の海馬領域と側頭連合野が,相貌の意味記憶を担う神経基盤として劣位半球の相同部位が重視される。加えて,側頭葉を主として侵す葉性萎縮過程は,単に部位ということだけにとどまらず,意味記憶を支える系あるいはneural networkを単位的に損なう可能性が示唆される。