右大脳半球の広範な梗塞性病変により失文法症状を呈した症例を報告した。症例は51歳, 男性, 両手利き (書字には右手を使用) 。会話時に明らかな電文体発話が認められた。本症例の自発話と自発書字を, それぞれ「自由発話・書字」と「説明発話・書字 (まんが・絵画説明時の発話・書字) 」とに分け, 症候学的に対比した。その結果, 1. 電文体は自由発話において顕著であり, 自由書字, 説明発話・書字においては軽度であった。 2. 助詞の誤りには, 省略の他に置換が, 自由発話・書字, 説明発話・書字のすべてにおいて認められた。 3. 書字動作は素早いが, 乱雑であり, 仮名の錯書が拗音・促音で明らかで, 漢字の想起困難が認められた。これらの特徴は本邦の失文法報告例においても同様に認められた。文献例との比較検討により, 1~3は本症例の言語機能の半球側性化が通常と異なるために出現したものと考えられた。