左頭頂後頭病変により純粋失書を呈した 2 症例を報告した。症例1 は50歳男性左頭頂後頭皮質下出血。症例2 は62歳男性左後頭葉を中心とする脳腫瘍。2症例とも写字や図形の模写には異常がなく, 書字障害のみを有していた。失書は両手に認められ, 漢字仮名の両方が障害されていた。書字困難な漢字の音読み訓読みが可能であったことより, 漢字の聴覚心像は保たれていると考えられた。また書字困難な漢字, 仮名文字の形態を口頭で表わすことが可能であったことより, 文字の視覚心像は保たれていると考えられた。さらに仮名文字の書字過程には, 漢字の書字過程と同様に視覚心像を介する経路も存在すると考えられた。本症例では Wernicke 野から左角回および左側頭葉後下部に病変が及んでいなかったことから, 文字の聴覚心像, 視覚心像が保たれたものであると思われ, 純粋失書の症状は, 視覚心像から運動覚心像に至る経路の障害によって生じたものであると考えられた。